鉄鍋 鉄フライパンで鉄分が補給できる仕組みをやさしく解説

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「鉄分不足が気になる」「貧血ぎみで、食事から少しでも改善したい」——そのようにお感じの方、サプリメントに頼る前に、ぜひ一度立ち止まってみてください。実は毎日使う料理道具を少し変えるだけで、自然な形で鉄分を摂ることができる方法があります。

それが、鉄製フライパンを活用することです。

「フライパンから鉄が溶け出すの?」と驚かれた方もいらっしゃるかもしれませんね。でもこれは、ちゃんと科学的に証明されている事実なんです。今回は、その仕組みを「水」「塩分」「酸性食材」の3つのパターンに分けて、わかりやすくご説明します。


そもそも、どうして鉄が「溶ける」のでしょう?

鉄製フライパンの素材は、ほぼ純粋な鉄(元素記号:Fe)でできています。金属の鉄は、ある条件が揃うと**鉄イオン(Fe²⁺)**というとても小さな粒子に変わって、食材のなかへ溶け込む性質があります。

このイオン化こそが、「フライパンから鉄分が摂れる」の正体です。

そして、ひとつ大切なポイントがあります。条件によって、溶け出す量がまったく変わってくるのです。上手に活用すれば鉄分補給に役立てることができますし、逆に知らずにいると、フライパンを傷める原因にもなりかねません。3つのパターンを順番に見ていきましょう。


① 水だけのとき ── じわじわと、でも少量

パスタを茹でるときや、野菜をさっと下茹でするとき。鉄のフライパンに水だけが触れているような状況です。

このとき、鉄は水と空気中の酸素に少しずつ反応して、鉄イオンへと変化します。

【化学式メモ】 Fe → Fe²⁺ + 2e⁻(鉄が電子を手放してイオンになる) O₂ + 2H₂O + 4e⁻ → 4OH⁻(酸素が水中の電子を受け取る)

ただし、純粋な水だけの場合、反応はとてもゆっくりで、溶け出す鉄の量もごくわずかです。「鉄分補給!」と期待するには、少し物足りないレベルといえるでしょう。

むしろ気をつけていただきたいのは、調理後に水を張ったまま放置すること。少量ずつでも長時間さらされると、錆びの原因になってしまいます。使ったらすぐに洗って、しっかりと乾かすことを習慣にしてみてください。


② 塩分がある食材のとき ── 溶け出すスピードが一気に加速

醤油で味付けした炒め物、味噌を使った料理、塩もみした野菜……。塩分(食塩=NaCl)を含む食材をフライパンで調理するとき、鉄の溶け出し方は大きく変わります。

なぜなら、食塩が水に溶けると**塩化物イオン(Cl⁻)**という粒子を生み出すからです。

【化学式メモ】 NaCl → Na⁺ + Cl⁻(食塩が水中でイオンに分かれる)

この塩化物イオンがやっかいで、鉄の表面を薄く覆っている「酸化膜」——いわばフライパンを守る自然のバリア——を壊してしまう働きがあります。バリアが破れた部分から鉄が直接食材にさらされ、腐食のスピードが一気に上がってしまうのです。

**「煮物を作ったあと、フライパンにそのまま料理を入れっぱなしにしていたら、翌日に錆びていた!」**という経験はございませんか?あれはまさに、この塩化物イオンが引き起こした変化です。

料理に塩分を使うこと自体はまったく問題ありませんが、調理後は食材を別の容器に移して、すぐにフライパンを洗うことを心がけてみてください。


③ 酸性の食材のとき ── 一番よく溶ける&鉄分補給に最適

トマト、レモン、お酢、ワイン、梅干し……。これらに共通するのは酸性であること。実はこの酸性食材こそ、鉄分補給の観点からは「最もおすすめの組み合わせ」といえます。

酸性の食材には水素イオン(H⁺)がたくさん含まれており、これが鉄と直接反応します。

【化学式メモ】 Fe + 2H⁺ → Fe²⁺ + H₂↑(鉄が水素イオンと反応して溶け出す)

水素ガスを発生させながら鉄がどんどんイオン化していく、非常に積極的な反応です。

さらに嬉しいことがあります。トマトや柑橘類に豊富に含まれるクエン酸は、溶け出した鉄イオンをしっかりと捕まえて(これを「キレート」といいます)、体に吸収されやすい形で食材のなかに留めてくれる働きがあるのです。

つまり「溶け出す量が多い」うえに「吸収されやすい」という、鉄分補給にとってダブルで嬉しい条件が揃うことになります。

研究データが示す、驚きの事実

鉄鍋からの鉄溶出を調べた国内の研究では、調味料ごとに溶出量を比較したところ、食酢・トマトケチャップ・食塩の順に多く溶け出すことが確認されています。なかでも食酢を加えたときの溶出量は特に顕著で、他の調味料と比べて際立って多かったと報告されています。また、加熱時間が長いほど溶け出す量も増えることも明らかになっています。

さらに注目していただきたいのが、溶け出した鉄の「質」です。同研究では、鉄鍋から溶け出した鉄の**78〜98%が「2価鉄(Fe²⁺)」であることが示されています。2価鉄とは、体に吸収されやすい形の鉄のこと。特に食酢を使った場合はその割合が98%**に達し、しかも安定性にも優れていたと報告されています。

🍳 おすすめ料理の例: 鉄のフライパンで作る南蛮漬けや酢豚、トマトソースなどは、鉄分補給の観点からも大変理にかなっています。酸性食材のなかでも特に食酢は、溶出量・吸収されやすさの両面で優れた結果が出ています。

ただし、加熱時間が長いほど溶出量は増える一方で、フライパンへのダメージも大きくなります。短時間でさっと仕上げるのが、フライパンにも体にも優しいコツです。


3つのパターンを整理してみると

条件 代表的な食材・シーン 溶け出す量 フライパンへの影響
水のみ 下茹で、湯沸かし 少ない 長時間の放置はNG
塩分あり 醤油炒め、味噌煮 中程度 放置すると錆びやすい
酸性食材 トマト、レモン、酢 多い 手早く調理するのがコツ

鉄フライパンを「鉄分補給ツール」として上手に活かすには

鉄分補給を意識されるなら、トマトや柑橘類、食酢を使った料理を鉄のフライパンでさっと仕上げるのがおすすめです。フライパンから溶け出した鉄の大部分は体に吸収されやすい2価鉄ですので、酸性食材と組み合わせることで、より効率よく鉄分を摂ることができます。

また、先ほどご紹介した研究では、油を使って調理すると鉄の溶け出しが減少する傾向があることも報告されています。鉄分補給を目的とする場合は、油を控えめにして酸性食材を活かした調理がより効果的といえるでしょう。

さらに同研究では、鉄鍋で調理した食品はステンレス鍋で調理したものよりも鉄含量が多かったことも確認されています。毎日の料理に鉄フライパンを取り入れるだけで、知らず知らずのうちに鉄分摂取量が増えていくというわけです。

一方で、フライパンを長持ちさせるためには、次の3つを習慣にしてみてください。

  • 調理後は食材をすぐに別の容器へ移す
  • 洗ったあとは火にかけてしっかりと乾かす
  • 保管前に薄く油を塗っておく

これだけで、錆びにくく、使うほどに育っていく頼もしい一枚になってくれます。

仕組みを知ると、鉄フライパンがただの調理道具ではなく、毎日の健康をさりげなく支えてくれる存在に見えてきませんか?日々のごはん作りに、少しだけ科学の視点を取り入れてみてください。

 

参考文献

今野 暁子・及川 桂子「鉄鍋・鉄びんからの鉄の溶出に関する研究」日本調理科学会誌, 39-44, 2003